……こんにちは。
東北イタコです。
十月の半ばに、栗駒山の紅葉のことを書きました。
紅葉は、山の上から下りてくる。……そう書いたのを、覚えているでしょうか。
あれから半月。色は、里の近くまで下りてきました。
だから先週、追いかけて行ってきました。
宮城の大崎、 鳴子峡 へ。
今回の連れは、きりたんです。
🍁 誘ったら、来ました
イタコ「……鳴子へ、紅葉を見に行くけれど」
きりたん「歩きますか」
イタコ「……少し」
きりたん「温泉は」
イタコ「……ある」
きりたん「行きます」
交渉は、十秒で終わりました。
この子は外に出るのを嫌がるけれど、理由がひとつあれば、ちゃんと来る。
……その理由を、こちらが用意してあげればいいだけ。
ずんだもんは「ボクは留守番でいいのだ、寒いのだ」と、毛布にくるまって見送ってくれました。
🏞️ 谷の音
鳴子峡は、 大谷川 が長い時間をかけて刻んだ峡谷です。
深さは、 およそ100メートル 。
切り立った崖の両側を、木々がびっしりと覆っています。
紅葉の見頃は、 例年10月下旬から11月上旬ごろ 。
私たちが行った先週は、ちょうど見頃のさなかでした。
今回は、 見晴台 から谷を眺めることにしました。
柵の手前に立って、のぞき込んだ瞬間。
きりたん「……うわ」
崖の斜面が、上から下まで、赤と橙と黄色。
ところどころに、松の濃い緑が混じっています。
その緑があるから、赤がいっそう赤く見える。
……色は、隣に置かれた色で決まるのかもしれません。

ずっと下のほうで、川の音がしていました。
流れはほとんど見えないのに、音だけは、ちゃんと上まで届く。
きりたん「ゲームだったら、ここ、絶対に何か落ちてますよね」
イタコ「……何が」
きりたん「宝箱とか。崖の途中に」
イタコ「……取りに行かないでね」
きりたん「行きませんよ。現実なので」
……現実だと分かっているなら、それでいいの。
🍂 見上げる紅葉と、見下ろす紅葉
栗駒山の紅葉は、見上げる紅葉でした。
山の斜面いっぱいに広がる色を、下から仰ぐ。
鳴子峡は、逆です。
見下ろす紅葉。
谷の底へ向かって、色が落ちていく。
同じ秋の色なのに、目線が違うだけで、まるで別のものに見えました。
色づいているのは、ブナ、ナラ、カエデ。
いろいろな木が混ざっているから、赤も黄色も、一色ではないのです。
きりたん「ずん姉さまに見せてもらった栗駒山の写真より、色の数が多い気がします」
イタコ「……そうね。下りてくるあいだに、増えたのかも」
きりたん「紅葉って、増えるんですか」
イタコ「……いいえ。言ってみただけ」
きりたんは、少しだけ笑いました。
♨️ 湯の音
谷を眺めたあとは、鳴子の温泉街へ。
あちこちから、白い湯けむりが上がっています。
冷えた空気のなかで、そこだけ、やわらかい。
約束どおり、足湯に寄りました。
きりたん「……あ。これは、いいです」
靴下を脱いで、そっと足を入れて。
きりたんは、そのまま動かなくなりました。
五分。十分。
イタコ「……そろそろ」
きりたん「まだです」
十五分。
イタコ「……顔、赤いけれど」
きりたん「紅葉が映ってるだけです」
……映っていません。
立ち上がったとき、きりたんは少しふらついて、私の袖をつかみました。
のぼせていました。
ベンチで休ませて、冷たいお茶を少しずつ。
きりたん「……足湯でのぼせる人って、いるんですね」
イタコ「……いま、目の前に」
足だけだから大丈夫、と思いがちだけれど。
長く浸かれば、体はちゃんと温まります。
……ほどほどに。お水も、忘れずに。
🎎 こけしの音
温泉街には、こけしを作る工房がいくつもあります。
そのひとつで、職人さんの仕事を少しだけ見せてもらいました。
鳴子こけし 。
大きな頭。真ん中のあたりが、少しくびれた胴。
胴には、 菊の模様 が描かれていることが多いそうです。
職人さんが筆を運ぶと、白い木肌に、赤い花びらが一枚ずつ増えていきました。
迷いのない筆でした。
鳴子こけしには、ほかにはない仕掛けがあります。
首が、胴に はめ込まれている のです。
首の差し込む部分は胴の穴より少し大きく作ってあって、ロクロで回しながら、摩擦で一気に押し込むのだとか。
だから、首を回すと。
キュッ、キュッ。
小さな声で、鳴くのです。
きりたん「……鳴きました」
イタコ「……鳴いたわね」
きりたん「もう一回いいですか」
きりたんは、見本として置かれていた一体の首を、何度も回していました。
キュッ。キュッ。キュッ。
……気に入ったみたい。
鳴子でこけしが作られるようになったのは、 江戸時代の終わりごろ と考えられているそうです。
材料は、 ミズキ という白い木。
長いあいだ、同じ形のまま、同じ音で鳴き続けてきた人形です。

👁️ 顔のあるもの
棚の前で、私はしばらく立ち止まっていました。
並んでいるこけしは、どれも同じ形。
なのに、顔が、一体ずつ少しだけ違う。
目の細さ。眉の角度。口もとの小ささ。
描いた人の、その日の手の具合が、そのまま残っているのでしょう。
きりたん「イタコ姉さん、何か見えてますか」
イタコ「……何も。ただ、見ているだけ」
きりたん「本職が言うと、こわいんですよ」
顔のあるものの前では、つい、長く立ってしまう。
……仕事柄、というより、性分です。
その中から一体だけ、連れて帰ることにしました。
いちばん目の細い、眠そうな顔の子。
きりたん「……ちょっと私に似てませんか、それ」
イタコ「……気づいた?」
🏠 帰ってから
こけしは、居間の棚に置きました。
その夜。
ずんだもん「イタコ姉さん!い、いま棚のほうから、キュッて鳴ったのだ!」
……きりたんが、首を回していただけです。
きりたん「確認です。音の」
ずんだもん「夜中に確認しないでほしいのだ!」
しばらくのあいだ、居間では、ときどき小さな音が鳴りそうです。
🍁 まとめ
- 鳴子峡は宮城・大崎の、大谷川が刻んだ深さ約100メートルの峡谷です
- 紅葉の見頃は例年10月下旬〜11月上旬ごろ。今回は見晴台から、見下ろす紅葉を
- 鳴子こけしは、大きな頭と菊の模様。首がはめ込み式で、回すとキュッキュッと鳴ります
- 足湯でも、長く浸かればのぼせます。……ほどほどに
山の上の紅葉の話は、 栗駒山の紅葉を見に に書きました。
私のことは 東北イタコ 、足湯でのぼせた子のことは 東北きりたん のページにあります。
紅葉は、ここからさらに里へ、街へと下りていきます。
……あなたの家の近くの木も、そろそろかもしれません。
……それでは。
東北イタコでした。

